スキマダイアリ

インドネシアでさまようリーマン

そして僕は途方に暮れる

 11月の後半に出国してから2週間以上過ぎ、おれは今クアラルンプール。チャイナタウンの近く、プドゥラヤという長距離バスのステーションの隣という、鳴り止まぬ喧騒を除けばかなりの好条件の立地に位置するプドゥ・ホステルを定宿にいろいろ足を伸ばしている。
 なぜかこのホステルの前にはいつも門番のようなおっさんが立っている。そのおっさんは傷痍軍人なのかなんだか知らないが、片手ももうかたっぽのの手の指もぶっとんでて、何もない。客の顔をしっかり覚えていて、通り過ぎるときに必ず「ヤ!」と挨拶。何してる人なのかイマイチつかめなかったが、雑談の中で「バスでタマンヌガラ自然公園へ行きたいと思っている」と言った瞬間、おっさんは凄い勢いで走っていった。そして凄い勢いでパンフと共に戻ってきて、「トゥモロー?トゥモロー?」。その時点で既に午後9時だったが、おっさんの勢いに押されてなんか「トゥ、トゥモロー」と言ってしまった。パンフを見せてくるおっさん。「地球の歩き方」なんかを見ると、「タマンヌガラ国立公園行きのバスは〜〜ホテル前から」なんてことと標準的な値段が書いてあるが、それより安い。しかもホテルの前からシャトルが出るらしい。だめもとで値切ってみる。値切れた。これでタマンヌガラ国立公園に行くことが決まった。
 他にも雑談中に「ジェラントゥットってどんなとこかな」とか「キャメロンハイランドに行きたかったんだけど」などと迂闊に地名を口走ると、おっさんは弾丸のように飛び出そうとする。本当に行きたいときはいいが、適当に名前を出したときは必死で止める。国立自然公園もまっすぐ行くつもりが、クアラテンベリンやジェラントゥットなんていう「歩き方」にも載ってないようなところに行く事になった。別に値段が高くなっているわけではないのに、おっさんはひた走る。泊り客を見ると、肘までしかない手を上げる。「ヤ!」