2013-05-17 男たちのアフターファイブ 夢枕獏風 雑文 仕事が終わった後でふと思った。 はたして仕事先から自宅まで歩けるのか否か── 考え付いた瞬間歩き出す。 ひたすら歩みをすすめる。 30分後── 地下鉄の駅を通り過ぎるたびに(もう乗るか)と自分に聞いてみる。 一体―― いつまでねばる気だ――? これほどの距離を―― 耐え抜くとは。 脚が棒のようだ。 指は? 掴める! 脚は? 走れる! ジャケットは? おしゃれ! 問題ない。何も、問題はない。 一体、何の不満があるだろう。 自分には、こんなに立派な肉体があるではないか。 闘え、闘え。 そう言ってくれる肉体が、あるではないか。 「応!」 声にならない、声をあげる。 自分の肉体に、応える。 できるのだと、手にしたiPodが叫んでいる。 研ぎ澄まされた日本刀で、何もかも根こそぎ断ち切るような割り方。 膝が、がくがくと震えていた。 何か、凄まじいものが、背を駆け抜けている。背を駆け登ってゆく。 駆け登って、脳天に突き抜ける。駆け登っても駆け登っても、突き抜けても突き抜けても、まだ終わらない。まだ足らない。 あ。 あ。 駅舎が、見える。 そうだ。 もう何も言わなくても、分かってるじゃないか。 もっとだ。手を上にあげるんだ。 そうだ。それでいい。 自分を誇れ。 勝利を宣言しろ。 俺はやりとげたと、みなに宣言しろ。 それでいい。それでいい。 俺は、満足だ。 このまま。 このまま逝かせてくれ---。 一時間歩き続けて気付けば自宅まで着いた。 地下鉄で行けば6駅分、約9分である。 無駄な時間だった・・・( 'ω`)