「涙と共にパンを食べたことのない者は」

涙と共にパンを食べたことのない者は
苦しみに満ちた夜ごとに
ベッドに座って泣いたことのない者は
あなた方を知らないのだ 天の力よ


あなた方は私たちを人生へと導き
惨めなものに罪を負わせ
苦しみを与えるのだ
全ての罪は地上において報いを受けるのだから

 ご存知、ゲーテの超有名な詩です。コレに関して三木清は告白録『語られざる哲学』の中で、友人に「君は不幸に逢わなければよくなれない。君は大きな打撃にぶっつかる必要がある。」とツメられたことと併せてこの詩を引用している。痛みを味わったことのない人間が、他人の痛みを分かるはずもない。そりゃまあ本当の意味で100%相手を理解するのは不可能だ。それでもしょっぱいパンを食べてきた奴なら、相手が痛みを感じていると思えばまた自分も痛みを感じるもんじゃないの?苦味を感じない、味蕾がマヒしたような奴だけが、無責任に他人の痛みを踏みにじる。

 20歳も何年か前に通り越して、「人生の味なんてまだまだ分からんわ〜」とも言ってられないお年頃です。薄味かもしれないけど涙パンもぼちぼち食ってきたのかなあ。酸いも甘いも味のうちで、両方食べた奴だけ人生の味が分かる、ということらしい。そして詩はこう終わる。

戸口に忍び寄っては
静かに慎ましく立っていよう
敬虔な手が糧を施したなら
また歩き続けよう
誰もみな 私の姿を見れば
自分が幸せであると感じ
一粒の涙を流すだろうが
私は何故泣くのか分からないのだ

 うーん、ええのうええのう。深い悲しみを感じ、痛みを和らげるために歌いながらも、自らの不幸に気付かず彷徨う老人・・・といったところか。よく分からなくても、悲しくて、かっこええ。

原文:
Wer nie sein Brot mit Tränen aß,
Wer nie die kummervollen Nächte
Auf seinem Bette weinend saß,
Der kennt euch nicht, ihr himmlischen Mächte.

Ihr führt ins Leben uns hinein,
Ihr laßt den Armen schuldig werden,
Dann überlaßt ihr ihn der Pein;
Denn alle Schuld rächt sich auf Erden.


参考:関泰祐による日本語訳(筑摩世界文学大系版)
涙もておのが糧(かて)を味わいしことなき者、
憂い多き夜な夜なを
おのが臥床(ふしど)に泣きあかしたることなき者は、
天(あめ)なる御力(みちから)よ、おんみを知らじ。
(後略)